入賞作品発表
当社天体写真コンテストの第3回目となる「サイトロンジャパン天体写真コンテスト2023」を開催いたしました。本コンテストにご応募を賜りました皆様に、心より感謝申し上げます。過去最多の320点を超える応募作品の中から、厳正な審査を経て決定した各賞をここに発表いたします。
総評 |
沼澤 茂美 たいへん多くの作品のご応募をありがとうございました。今年は、あらゆる部門で画像処理のソフトウェアの進歩が、いかに大きな影響を与えたかを実感する年でもありました。星空風景写真部門は撮影手法や処理方法の選択肢がいっそう広がり、合成による表現が大勢を占めるに至って、表現もかなり過激になってきた感があります。そんな中で、やはりシングルショットによるナチュラルな表現が審査員の心を引きつけたといえるでしょう。ディープスカイの天体に関しては、年々、撮影や加工が確立されて目指す方向性が収束してきた一方で、魅せる対象は多様化し、いままでとはまったく異なる宇宙の表情をとらえた作品が多く寄せられました。 |
成澤 広幸 今回は強い画像処理を施した星空風景写真が選出されませんでした。「良い写真だな」と思っても、画像を細かく見てみると、粗さを感じる作品が多かったためです。私は強い処理を施した作品も応援したいと思っているので、残念でした。フォトコンテストではプリントに堪えるレベルの画質が求められます。応募前に、A3程度でプリントをして入念にチェックすることをおすすめします。審査をしながら多くの作品に「もったいない!」と感じました。 |
渡邉 晃 本コンテストも3回目の開催となり、応募点数も過去最高となりました。傾向としては星空写真の増加と、若年層(最年少は10歳)の応募が増えたことが印象的でした。ご応募いただきました皆様にお礼申し上げます。回を重ねるごとに作品の質も上がっており、甲乙つけがたく非常に難しい審査でした。今回入選された作品以外にも数多くの佳作がありました。今回選に漏れた皆様もぜひまた次回チャレンジください。 |
受賞作品一覧 |
大賞
Grand Prize
LBN251とはくちょう座の星雲群飯野智単独で撮影されることが少ないマイナーな対象ですが、独特の形状と3つの輝線が織成す壮大かつ繊細な姿を表現したいと考えて撮影しました。新月期の長時間露出と星雲の複雑な構造を意識した処理で、目指した作品になりました。不規則な深夜撮影にも関わらずいつも支えてくれる妻に感謝しています。(飯野智) |
【評:沼澤茂美】
初めてこの作品を目にしたとき、「これはどこなのだろう」と困惑したのは確かです。はくちょう座γ星付近のもっとも明るい部分を含まず、NGC6888(クレセント星雲)も避けた画角。そこにこんなにも魅力的な領域があったことに驚かされました。それを見る人の心の深層に訴えかけるような作品に仕上げた飯野 智さんの感性にたいへん大きな刺激を受けました。私は本作品にジャクソン・ポロックの抽象画に通じるものを感じ、天体写真における新しい分野の到来を垣間見た気がします。
【撮影データ】2023年7月17日21時 Askar FRA600(D108mm f600mm F5.6) Askar F3.9レデ ューサーFRA600用(合成f420mm 合成F3.9) iOptron CEM70赤道儀 D60mm f240mmガイド鏡+QHY5L-IIM+PHD2による自動ガイド Antlia 3nmナローバンドフィルター(Hα,OⅢ,SⅡ) ZWO ASI2600MM Pro 総露出10時間40分 SⅡ画像:5 分×27コマ Hα画像:5分×41コマ OⅢ画像:5分×60コマ PixInsightほかで画像処理 SAO疑似カラー合成 撮影地/千葉県大多喜町
天体写真部門賞
Astrophotography Prize
カリフォルニア星雲(NGC1499)SAO大島良明撮影は小型屈折鏡筒の先端に釣り糸で自作したクロスフィルターを取り付け、反射鏡筒のような十字のスパイク光を発生させてみました。処理は星雲の緑(Hα)を薄くして赤(SⅡ)と青(OⅢ)を感じられるように調整、星像はRGB画像と入れ替え、見慣れた色味にしています。(大島良明) |
【評:沼澤茂美】
高度な撮影・加工の手法が確立してきた中で、対象の美しさ、繊細な表現法、ていねいな仕上げなど、さまざまな点で圧倒されたのが大島良明さんの作品でした。大型モニターに拡大して見るとその情報量に目を見張ります。撮影はRGB分解のほかに各輝線をナローバンドフィルターで撮影して合成しており、露出時間の合計は15時間を超えているようです。口径5cmで焦点距離が250mm、非常にコンパクトな光学系を使っての圧倒的な写真表現。このスタイルでさまざまな天体の未知の表情をこれからも見せていただければと思います。
【撮影データ】2022年12月19日18時20分~ほか複数夜 ウィリアムオプティクス Redcat 51(D51mm f 250mm F4.9) 自作クロスフィルター ビクセンGP2赤道議およびスカイウォッチャーEQ5 GOTO赤道議 富士フイルムHF75HA-1s(f75mm F2.8)+ ZWO ASI120MM-mini+PHD2で 自動ガイド ZWO ASI294MM-Pro(bin 1,-10℃) 総露出15時間10分 R画像:1分×10コマ, SⅡ画像10分× 32コマ G画像:1分×10コマ,Hα画像10分×22コマ B画像:1分× 10コマ, OⅢ 画像10分×34コマ 元画像を星雲画像と恒星画像に分離 し,SAO疑似カラー合成画像にRGB 画像を合成 PixInsightほかで画像処理 撮影地/静岡県富士宮市朝霧 アリーナ
星空風景写真部門賞
Starry sky landscape photography Prize
銀河を翔ぶ福本タダシ蛍の撮影は、広角レンズで撮るのが一般的でしょうが、このときは蛍が空高く飛んでいたため、あえて85mmでいて座方向をねらってみたところ、写野内に蛍が飛びこんでくれました。わずか30秒の露出ですが、アストロトレーサーのおかげで迅速に撮影できました。 (福本タダシ) |
【評:成澤広幸】
広角の星空風景とホタルをとらえた作品はよくありますが、中望遠の焦点距離ではなかなかないと思います。美しい星空に対して、既視感のある背景と向き合わなければならないのが星空風景写真ですが、審査の過程で常に私も向き合っています。この作品は星野写真を撮影している最中にホタルの光が入りこんだのだと思いますが、いつもとは違う“組み合わせ”が作品の個性を印象付けているのは間違いないでしょう。
【撮影データ】2022年6月24日23時41分~ サムヤン5mm F1.4(絞りF2.8) ケンコー・トキナーPRO1Dプロソフトン[A](W) ペンタックスK-1 MarkⅡ(ISO3200) ペンタックス アストロトレーサー 露出30秒 photoscapeXで画像処理 撮影地/奈良県宇陀郡御杖村
沼澤茂美賞
Sigemi Numazawa Prize
IC348~NGC1333渡辺教浩独特な色合いが美しく、数ある天体の中でもとくに好きな対象の一つです。 撮影には小型の鏡筒で臨みましたが、 暗めの対象でやや不利な撮影となりました。 暗く淡い分子雲をとらえることができるか不安でしたが、 露出を長く稼ぐことで、 そのうねりや独特な星雲の色をなんとか描出できたと思います。 (渡辺教浩) |
【評:沼澤茂美】
ディープスカイをとらえた天体写真の多様性が拡がった一因として、いままで見えなかった淡い天体を記録できるようになったことが挙げられます。中でもコアな天体写真ファンを引きつけるのが各所の分子雲に付随する淡い反射星雲・輝線星雲・暗黒星雲などのガス雲が混在した領域ではないでしょうか、そのような作品の中で、渡辺教浩さんの本作品は、一見地味ではありますが、大きく拡大して見ると、さまざまな要素がぎっしり詰まっていて、新たな興味を喚起させてくれる玄人好みの作品だと感じました。.
【撮影データ】2022年10月25日21時~(ほか1夜) タカハシFS-60CB (D60mm f355mm F5.9) FC/FSマルチフラットナー 1.04×(合成f370mm 合成 F6.2) ビクセンGPD赤道議 D30mm f120mmガイド鏡+ ZWO ASI 120 MM + SSoneAutoGuiderProによる自動ガイド キヤノンEOS 6D (ISO1600 SEO-sp4改造)総露出時間558分(6分×93コマ) PixInsightほかで画像処理 撮影地/岐阜県揖斐川町
成澤広幸賞
Hiroyuki Narisawa Prize
競演木村洋介洞窟から望む薄明の天の川をねらい、さらに金星と火星、細い月が縦に並ぶシーンを計算して撮影しました。それぞれが縦に並ぶ美しさは感動的で、細い月の地球照まで写せたのは思わぬ収穫でした。火星は点のようにしか写りませんでしたが、ほぼイメージ通りに撮影できました。(木村洋介) |
【評:成澤広幸】
いわゆる「額縁構図」といわれる構図で、手前の岩から早春の天の川まで奥行きを感じさせます。朝焼けと金星の光が海に反射した“金星ロード”が手前の岩に届いているかのように見えるのも良いですね。欲をいえば、天の川から上の部分に少し空間があるので、三脚をもう少し高くし(高くできない環境だったかもしれませんが)、構図を下に振れば、手前の風景の面積が増え、目線も高くなるので、水平線近くの月をもう少し目立たせることができたかもしれません。
【撮影データ】2022年2月28日04時55分~ シグマ14mm F1.8 DG HSM Art(14mm 絞りF2.0) キヤノン EOS R6(ISO4000) 露出15秒 SILKYPIX Developer Studio Pro11で画像処理 撮影地/岩手県田野畑村
サイトロンジャパン賞
Sightron Japan Prize
まゆ星雲平野義岳 |
【評:渡邉晃】
まゆ星雲から暗黒星雲への広がりを美しくとらえた作品です。最新のZ 4 鏡筒を使用することでAPS-Cフォーマットの周辺までシャープな星像をとらえつつ、3時間40 分の露出により暗黒星雲の様子を表現豊かに描写しています。青色成分を比較的多く透過するComet BPフィルターの効果により、全体的なカラーバランスを整えつつ、Hα輝線を強調することでまゆ星雲の内側の興味深い構造を詳細に映し出しています。撮影対象にあわせて緻密に機材の組合わせを考えて実現された優れた作品だと感じました。
【撮影データ】2023年8月11日23時11分~ SHARPSTAR Z4 (D100mm f550mm F5.5) サイトロンComet BPフィルター Rainbow Astro RST-135赤道議 D30mm f120mmガイド鏡+ ZWO ASI120MM Mini+ASIAIRによるオートガイド ZWO ASI2600MC Pro 総露出3時間40分(5分×44コマ) PixInsight Star X Terminatorほかで画像処理 撮影地/静岡県富士宮市
U29賞
Under29 Prize
M33 さんかく座銀河山崎朝 |
【評:成澤広幸】
総露出時間1時間30分という、天体写真としては比較的短い露出時間で仕上げた作品です。星の色もよく出ており、ふわっとした透明感のあるM33が 非 常に印 象に残りました。Sky-Watcher Quattro150P とキヤノンEOS kiss X9iの改造機で撮影した作品ですが、天体写真とAPS-Cカメラの相性の良さが伝わります。
【撮影データ】2023年9月13日01時12分~ Sky-Watcher Quattro 150P (D150mm f600mm F4) 付属コマコレクター(合成 f518mm 合成F3.45) サイトロン Dual BPフィルター Sky-Watcher EQ6R-Pro赤道議 D30mm f120mmガイド鏡+ZWO ASI120MM-mini+ASIAIR Plusでオートガイド キヤノン EOS Kiss X9i (HKIR改造 ISO3200)総露出1時間30分(3分×30コマ) PixInsightほかで画像処理 撮影地/千葉県南房総市白浜町
Sky-Watcher賞創造の柱@ハッブルカラー前岡理照 Askar賞NGC1909魔女の横顔林知史 |
Player One賞太陽黒点3387,3386群長岡薫 |
【3点合評:沼澤茂美】
M16の中心部、いわゆる「創造の柱」の応募作品は多いですが、その中でも前岡理照さんのハッブルパレットによる作品は、そのディティールのすばらしさにおいて、全審査員の目を引き付けた作品でした。 魔女の横顔を撮影した林知史さんの作品は、対象をアップしたものではなく、リゲルの青い輝きと左上の赤い散光星雲をバランスよく配置することで、カラフルで美しい作品に仕上がっていることが好印象でした。 長岡薫さんの太陽面の画像は、小さな画面表示では気付きませんでしたが、拡大するにつれて見えてくる太陽面の粒状斑のディティールに、審査員全員が感嘆の声を上げました。みごとな作品でした。
「創造の柱@ハッブルカラー」前岡理照
【撮影データ】 2023年7月24日21時14分~ほか3夜 Sky -Watcher QUATTRO250P(D250mm f1000mm F4.0 カー ボンパイプ改造) ビクセンエクステンダーPH(合成 f1400mm 合成F5.6) Sky -Watcher EQ6R赤道儀 D60mm f240mmガイド鏡 +ZWO ASI120MMmini+ASIAIRによるオートガイド ZWO ASI1600MM ZWOデュオバンドフィルター 総露出6時間15分(SⅡ、Ha、OⅢ 各画像5分×15コマ) Pixinsightほかで画像処理 撮影地/和歌山県すさみ町
「NGC1909魔女の横顔」林知史
【撮影データ】 2022年12月24日20時15分~ Askar FRA300 Pro (D60mm f300mm F5.0)Sky-Watcher AZ-EQ5GT 赤道議 D30mm f120mmガイド鏡+ZWO ASI120MMmini+PHD2でオートガイド ニコン Z6(HKIR改造 ISO1600) 総露出5時間(2分×18コマ+3分×88コマ) PixInsightで画像処理 撮影地/静岡県富士宮市
「太陽黒点3387,3386群」長岡薫
【撮影データ】 2023年7月29日07時06分~ タカハシTOA-150 (D150mm f1100mm F7.3) エクステンダー TOA1.6× テレビューパワーメイト4×(合成f7040mm) バーダーアストロソーラーフィルム Sky-Watcher EQ8Pro赤道議 Player One Apollo-M MAX 露出9.355/1000秒×135コマ Autostakkert!3ほかで画像処理 撮影地/東京都西多摩郡瑞穂町
カレンダー賞
※ 敬称略
上位入賞作品は「月刊天文ガイド」(誠文堂新光社刊2023年11月5日発売号)に掲載となります。
また、カメラと映像のワールドプレミアショー「CP+2024」のサイトロンジャパンブースにて展示予定です。
ぜひ、この機会に皆様のご来場を心よりお待ち申し上げております。
■CP+2024(会場イベント)
開催日:2024年2月22日(木)~25日(日)
開催場所:パシフィコ横浜 展示ホール
サイトロンジャパン天体写真コンテスト2023
主催:株式会社サイトロンジャパン
協力:月刊天文ガイド